緒明山公園は、横須賀・上町の小高い丘の上に広がる街区公園です。横須賀市最大の図書館である、横須賀市立中央図書館の目の前にあることから、「読書公園」という愛称が付けられています。天気の良い日には、その名前のとおり、ベンチで読書をしている人の姿を多く見かけます。
横須賀が軍都だったということもあり、戦後に開園した横須賀市の公園は、旧日本軍関連の施設から転用された例が多いです。しかし、緒明山公園は少し違った背景があり、1970年(昭和45年)まで市の緒明山配水池として利用されていた場所に開園した公園です。
「緒明山」という名前は、このあたり一帯を、浦賀船渠(通称・浦賀ドック。後の住友重機械工業浦賀工場)の創設にも関わった、伊豆・戸田村出身の実業家・緒明菊三郎が所有していたことに由来します。「緒明山」のすぐ隣りの丘は、かつて「雑賀山」と呼ばれていました。こちらは、呉服店を横須賀唯一の百貨店に成長させたさいか屋創業家の邸宅があったことに由来しています。当時は地元の有力者・実業家に由来する地名が少なくありませんでした。そのなかでも、この周辺の「若松町」「小川町」「安浦町」などは、今も正式な地名として残っています。

横須賀市街地の暮らしを支えた 緒明山配水池

横須賀は、全国的に見ても、早い時期から近代的な水道施設が敷設されてきました。これらは、幕末に建設がはじまった横須賀製鉄所(後の横須賀造船所、横須賀海軍工廠)向けなど、軍の関連施設のための水道(海軍水道半原系統)でした。横須賀市民向けの水道は、これらの余剰分からの分水や軍向け施設(海軍水道走水系統)の貸与を受けたものでした。
横須賀の軍港化は、軍の関係者だけでなく、それを支えるための一般市民の人口も爆発的に増えていくことになりました。しかし、近隣に規模の大きな水源を持たない横須賀などの三浦半島地域は、深刻な水不足に陥っていました。
そこで、日本初の県営広域水道として計画された神奈川県の県営水道から分水を受けることになり、緒明山配水池はそれを配水するための施設として築造されました。
2008年に横須賀市上下水道局が発行した「水の旅 横須賀水道100年史」によると、緒明山配水池が完成したのは1936年(昭和11年)のことで、同時期には、田浦配水池(現在の船越3丁目公園)と中里配水池(現在の汐入町3-34付近)も築造されました。
緒明山配水池はこれらの中でもっとも大規模なもの(容量 3,850m3)で、県営水道からの分水をここから平坂上丁字路まで500mmの大口径の配水管で結び、横須賀市内の低区向けの配水施設として機能していました。
緒明山公園横の坂道中段にある入口では、緒明山配水池当時の遺構を見ることができます。白く塗られたコンクリート造の建造物で、明治後期から昭和前期に築造された市内の他の水道施設と共通の特徴を持っています。

昭和の雰囲気を強く残す貴重な公園

緒明山公園は、緒明山配水池があった横須賀市立中央図書館前の広場と、山の中段に設けられた小さな広場の、二段構造になっています。
中央図書館前の広場は、そこに配水池があったことを連想させるような、ほぼ左右非対称の幾何学的な庭園が特徴で、ほど近い場所にある平和中央公園のリニューアル前(旧中央公園)の雰囲気に似ています。
フランス式庭園であれば噴水が置かれるような公園の軸となる通路の中央には、パンダのオブジェが鎮座しています。
昭和期に整備された公園は次々とリニューアルされていくなか、緒明山公園は、時代に取り残された古臭い公園と言えなくもありませんが、昭和の雰囲気を強く残す貴重な公園と言えるのかもしれません。

中央図書館の緒明山移転と「読書公園」としての整備

横須賀市立中央図書館が緒明山に移転してきたのは、1963年(昭和38年)のことです。それまでは、平坂下にある現在の横須賀市立児童図書館の場所(横須賀市若松町3-20)にありました。中央図書館が現在の地下1階・地上3階建の姿に増改築されたのは、1981年(昭和56年)から1983年(昭和58年)にかけてのことです。
この横須賀市立中央図書館の増改築と並行して進められたのが、1970年(昭和45年)に廃止された緒明山配水池跡地(中央図書館前の広場)の公園としての整備でした。
1982年(昭和57年)には、中央図書館の目の前に広がる公園であることから「読書公園」という愛称も付けられています。その記念となる、本を開いた形状のモニュメントは、現在も中央図書館に面した入口に置かれています。

戦後まもなく開園した「読書公園」以前の緒明山公園

横須賀市の資料によると、緒明山公園の開園は戦後まもない1949年(昭和24年)とあることから、中段の広場が開園当初の緒明山公園の敷地だったとみられます(緒明山配水池の廃止は、そのおよそ20年後にあたる1970年(昭和45年))。
「読書公園」と名乗る以前の緒明山公園は、よくある地域の小さな児童公園の一つとして親しまれていたのでしょう(現在も公園の種別としては「街区公園」(旧「児童公園」))。
現在の緒明山公園には、この中段の広場と中央図書館前の広場それぞれに子ども向けの遊具もありますが、どれも老朽化していて、あまり実用的とは言えません。
また、緒明山公園には名所になりそうな目立った植物もそれほど多くありませんが、公園横の坂道側にあるバーゴラ付近では、初夏にあじさいをたのしめます。


緒明山公園(読書公園)周辺の見どころ







