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旧本多邸(旧本多家住宅主屋)| 逗子・山の根に残る久米式耐震木骨構造の洋館

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・表札前より見上げる(撮影日:2024.07.14) 逗子
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・表札前より見上げる(撮影日:2024.07.14)

JR逗子駅西口からほど近い山の根の山すそに建つ旧本多邸は、東京で鉱山・船舶用の安全灯の製造販売業を営んでいた本多庄作氏が、久米設計創設者の久米権九郎に自邸として建築を依頼した、木造2階建ての洋館(西洋風住宅)です。戦前の1939年(昭和14年)に竣工されました。
旧本多邸は、久米権九郎が考案した「久米式耐震木骨構造」で設計された建築で、個人の邸宅としては、現存する唯一の建物です。

近年は30年以上に渡り空き家となっていましたが、2021年に久米設計が建物と土地を取得し、できるだけ建築当初の設計に基づいて修復・復元されて、2024年に改修工事が完了しました。
今後は久米設計の社員がサテライトオフィスとして利用する他、地域活動の拠点としてイベントなどでの活用も検討されています。

旧本多邸のような個人宅以外で「久米式耐震木骨構造」を用いた建築としては、日光金谷ホテル別館(1935年(昭和10年)竣工)と万平ホテルアルプス館(1936年(昭和11年)竣工)が現存しています。ともに日本を代表するクラシックホテルとして名高い名建築で、国の登録有形文化財(建造物)に指定されています。
2022年には「旧本多家住宅主屋」として、旧本多邸国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。旧本多邸の設計思想や細部までこだわった意匠を知れば、日光金谷ホテル万平ホテルに負けず劣らずの名建築であることがよく分かります。

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・表札(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・表札(撮影日:2024.07.14)
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久米権九郎の設計理念を形にした久米式耐震木骨構造

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・表札(側面)(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・表札(側面)(撮影日:2024.07.14)

旧本多邸を設計した久米権九郎は、ドイツで建築を学び、帰国後、今の久米設計の前身となる会社を創立しました。留学当初は化学を専攻していましたが、留学中に起きた関東大震災で、兄が滞在中のホテルの下敷きになって亡くなったことをきっかけに、建築を志すようになったと言います。
このため、久米権九郎の設計思想にはデザインより前に人命尊重という理念があり、後に、日本の在来工法である木造建築とドイツで学んだ近代的な建築理論を融合し耐震化をめざした、「久米式耐震木骨構造」の考案へつながっていくことになります。

久米式耐震木骨構造は、5cm角ほどの小柱を束ねた組柱を短めのスパンで並べ、その間に梁や貫といった横材を通してボルトで締めるという構造です。細い材を使うことで軽量化と経済性を実現でき、なおかつ、建物全体を鳥かごのような構造体とすることで、耐震性も高めています。

旧本多邸軸組模型(ナナメ)(撮影日:2024.07.14)
鳥かごのような構造体がよく分かる旧本多邸軸組模型(撮影日:2024.07.14)
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伝統を尊重しつつ新たな息吹を吹き込まれた旧本多邸

旧本多邸新築設計図(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸新築設計図(撮影日:2024.07.14)

旧本多邸久米権九郎による設計であることは、長年、久米設計としても把握しておらず、忘れられた存在だったと言います。

それが、あるとき、本多庄作氏の子孫が、誰も住まずに空き家となっていた旧本多邸内に残っていた書類を整理していたところ、旧本多邸の設計図が発見され、この建物が久米権九郎の設計で、久米式耐震木骨構造によるものであることが判明します。
このことがきっかけとなり、久米設計が建物と土地を取得し、改修が進められていくことになりました。

旧本多邸の改修にあたっては、オリジナルの久米式耐震木骨構造をいかしつつ、現代の耐震基準を満たす補強も取り入れたと言います。
旧本多邸の2階客間には、壁の一部がガラス張りすることで、実際に久米式耐震木骨構造を見られるようになっている場所が用意されています。

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・「久米式耐震木骨構造」が見られる2階客間(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・「久米式耐震木骨構造」が見られる2階客間(撮影日:2024.07.14)
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旧本多邸が建てられた時代背景

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・建物正面外観(応接室&食堂前)(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・建物正面外観(応接室&食堂前)(撮影日:2024.07.14)

1889年(明治22年)に横須賀線の逗子駅が開業すると、華族や政治家、横須賀軍港に属する将校、外交官や貿易商などの外国人などが、海岸周辺を中心に、こぞって別荘を建てるようになりました。この、逗子における第一次別荘ブームとも言える時期に建てられた建物は、1923年(大正12年)に発生した関東大震災で強震による倒壊や津波による流失の被害を受けたこともあり、現存するものは多くありません。

関東大震災後の逗子駅周辺エリアでは、一部の特権階級・超富裕層のためのものだけでなく、一般の富裕層~中間層のための邸宅も多く建てられるようになっていきました。
旧本多邸が建てられたのもこのような時期になります。同じ時代の建物としては、旧正力家別邸や旧脇村家住宅蘆花記念公園内)などが現存しています。旧正力家別邸旧脇村家住宅が日本家屋をベースにしているのに対して、旧本多邸の意匠は当時としてもすでに懐古趣味と言えるくらい19世紀後半のアメリカやヨーロッパを意識した洋館として建てられました。施主の本多庄作氏が欧米へ渡った経験があり、現地で直に西洋の文化に触れていたためか、それは建物内部の、壁や天井の装飾、調度品にも徹底されています。

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旧本多邸(旧本多家住宅主屋)の見どころ

1階 – 玄関・応接室

表玄関から建物に入ると、すぐ隣りには、開放的な連続窓が特徴の応接室があります。壁面のモールディングや天井のメダリオン(照明器具の装飾材)、大型の暖炉など、他にも見どころがつきません。

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・表玄関奥の廊下(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・表玄関奥の廊下(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・玄関天井のメダリオンと電灯(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・玄関天井のメダリオンと電灯(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・応接室(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・応接室(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・応接室の連続窓(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・応接室の連続窓(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・応接室天井のメダリオンと電灯(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・応接室天井のメダリオンと電灯(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・応接室の暖炉(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・応接室の暖炉(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・内玄関(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・内玄関(撮影日:2024.07.14)

1階 – 廊下・食堂・台所

応接室の隣りには食堂があります。観音扉を開けると、庭に面したテラスと一体的になり、半屋外空間ができあがります。
廊下を挟んだ反対側にある台所も含めて、厨房や調理機器などの設備は最新のものに更新されています。

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・食堂の観音扉(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・テラスに面した食堂の観音扉(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・食堂のオープンキッチン(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・食堂のオープンキッチン(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・1階廊下(ナナメ)(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・1階廊下(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・台所(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・台所(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・ガラス製のドアノブ(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・ガラス製のドアノブ(撮影日:2024.07.14)

1階 – 居間(吹き抜け)・和室

1階の居間には広い吹き抜けがあります。基本的に細い木材で構成された旧本多邸の中ではめずらしい、太い梁が見られます。
吹き抜けの途中には日本画が飾られていて、居間の隣りにある和室とともに、このあたりは和洋折衷な空間になっています。

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・居間より吹き抜けを見上げる(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・居間より太い梁が見える吹き抜けを見上げる(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・2階ホールより居間を見下ろす(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・2階ホールより居間を見下ろす ※ワークショップ中(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・居間の階段ホール(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・居間の階段ホール(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・居間の吹き抜けに飾られている日本画(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・居間の吹き抜けに飾られている日本画(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・1階和室(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・1階和室(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・1階和室より庭を望む(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・1階和室より庭を望む(撮影日:2024.07.14)

2階 – 各部屋

2階には、客間寝室などがあります。このあたりも和室と洋室が隣り合う、和洋折衷の空間です。
2階の庭に面した側の窓からは、逗子の街並みを一望することができます。2階の眺望からは、旧本多邸が他の逗子駅周辺の建物よりも、一段高い丘の上に建てられていることもよく分かります。

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・2階客間(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・2階客間(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・2階次の間より客間を望む(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・2階次の間より客間を望む(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・寝室(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・寝室(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・2階角部屋より逗子市街地を望む(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・2階角部屋より逗子市街地を望む(撮影日:2024.07.14)

小屋裏(屋根裏)

小屋裏(屋根裏)も、旧本多邸の構造がよく分かる場所です。熱循環のシステムが加えられています。
晴れた日の昼間は、ドーマー窓からの自然光だけでも、それなりの明るさが確保されています。

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・熱循環ダクトが装備された小屋裏(屋根裏)(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・熱循環ダクトが装備された小屋裏(屋根裏)(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・小屋裏(屋根裏)に眠るオルガンらしき楽器(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・小屋裏(屋根裏)に眠るオルガンらしき楽器(撮影日:2024.07.14)

ステンドグラス

どこまでが建築当初のものか分かりませんが、多くの部屋で、ステンドグラスによる装飾が見られます。

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・食堂のステンドグラス(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・食堂のステンドグラス(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・寝室のステンドグラスを吹き抜け(外側)より望む(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・寝室のステンドグラスを吹き抜け(外側)より望む(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・2階ホールより逗子市街地を望む(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・2階ホールより逗子市街地を望む(撮影日:2024.07.14)

室内窓

部屋と部屋、あるいは、部屋と廊下の間に、個性的な室内窓があしらわれているのも、旧本多邸の特徴の一つです。
たとえば、応接室廊下の間の室内窓は、部屋の扉を開けて出入りしなくても、ちょっとした飲食物や資料の受け渡しくらいであればやり取りできそうな、回転窓になっています。

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・応接室と廊下の間の室内窓(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・応接室と廊下の間の室内窓(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・居間と和室の室内窓(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・居間と和室の室内窓(撮影日:2024.07.14)

お手洗い・浴室

台所食堂の設備などと同様に、お手洗い浴室などの設備も、全面的に最新のものに置き換えられています。ただし、廊下に面した洗面台などは、まわりとの調和を重視した更新に留められています。

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・1階お手洗い前の洗面台(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・1階お手洗い前の洗面台(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・最新装備のお手洗い(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・最新装備のお手洗い(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・シャワー室(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・シャワー室(撮影日:2024.07.14)

建物裏

旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・建物裏の岩屋(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・建物裏の岩屋(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・建物裏の井戸(撮影日:2024.07.14)
旧本多邸(旧本多家住宅主屋)・建物裏の井戸(撮影日:2024.07.14)
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DATA

住所 逗子市山の根2-4-17
アクセス
行き方

JR横須賀線・湘南新宿ライン「逗子駅(西口・山の根方面)」より徒歩約5分、または、京急逗子線「逗子・葉山駅(北口)」より徒歩約10分

駐車場 なし
営業時間

※通常非公開

ウェブサイト https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/595070
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