葉山・一色の内陸部にある滝の坂に鎮座する吾妻神社(あづまじんじゃ/あずまじんじゃ)は、日本武尊(やまとたけるのみこと)を祀る神社です。このあたりには、古代の東海道が走っていたと見られていて、日本武尊が東国征討の際に通ったとされています(この「古東海道」は、律令時代の畿内から常陸国に至る官道で、相模国と上総国の間は、鎌倉、逗子、葉山から三浦半島を東西に横断して、走水付近より海路で房総半島に渡るというルートだったと考えられています)。
「滝の坂不動尊」という名前が付いていることからも分かるように、昔からここは湧水が滝のように流れ出る場所だったと言います。西国から走水へ抜けるために三浦半島を横断した際、日本武尊も霊水の湧き出るこの場所で身体を休めたと伝えられていることから、滝の坂の地に社が建立されたと言われています。
現在でも吾妻神社の社のすぐ横には井戸が残っていて、森山神社(森山社)の「世計り神事」でも利用されています。
主祭神 | 日本武尊 |
旧社格等 | ― |
創建 | 不詳 |
祭礼 | 8月最終日曜日 森山神社・世計り神事「お水取り」 ※実際の日にちは年によって異なる場合があります |
INDEX
吾妻神社の霊水が汲み取られる森山神社「世計り神事」の「お水取り」
森山神社(森山社)の「世計り神事」とは五穀の豊凶を占う神事のことで、吾妻神社では翌年のこの神事で使うための水を汲み取る「お水取り」が執り行われます。
この「世計り神事」は、江戸時代中期に編さんされた今でいう百科事典「和漢三才図会」に記載があることから、少なくとも300年以上は続いている神事で、葉山町の民俗無形文化財に指定されています。
現在の「世計り神事」は、毎年8月最終日曜日に執り行われる森山神社・例大祭当日に吾妻神社で水を汲み取る「お水取り」を行い、森山神社に持ち帰った水を東西南北と記された木札を貼り付けた甕に移し麦麹入れて神殿内に収めます。これを翌年の例大祭前日にあたる土曜日に開け、甕の水の減り具合と木札の落ち方によって五穀の豊凶を占うという神事です。
吾妻神社(吾妻社)は、明治後期の一村一社の政策によって、森山神社(森山社)に合祀されましたが、現在も社は滝の坂に残っています(神奈川県の「明治12年神社明細帳」によると、合祀されたのは森山神社(森山社)ではなく森戸神社(森戸社))。
滝の坂隧道の開通によって旧道となった滝の台峠
県道27号横須賀葉山線が整備される昭和30年代までは、吾妻神社(滝の坂不動尊)の前を通る滝の台峠が幹線道路として利用されていました。現在はその旧道の下に滝の坂隧道が開削されて、こちらに県道が走っています。
滝のように湧き出ていた滝の坂の湧水も、県道27号横須賀葉山線の工事によってだいぶ流量が減ってしまったと言います。