大巧寺は、鎌倉駅東口の、鶴岡八幡宮・二の鳥居近くに建つ寺院です。現在の鎌倉のメインストリートの一つ、若宮大路沿いに山門がありますが、こちらは裏門で、正門は反対側の小町大路側にあります。
大巧寺ははじめ真言宗でしたが、日蓮が開いた妙本寺に属し日蓮宗に改宗しました。1951年(昭和26年)に日蓮宗を離脱して、現在は単立寺院となっています。
大巧寺は通称「おんめさま」と呼ばれている、安産祈願のご利益で知られている寺院です。境内の安産腹帯守授与所には、安産御守や安産腹帯を求めたり安産のお礼に訪れる妊婦さんや家族の方などが絶え間なく出入りしていて、大巧寺はいつも独特のハッピーオーラに包まれています。
山号 | 長慶山 |
宗派 | 単立 |
寺格 | ― |
本尊 | 産女霊神 |
創建 | 不詳(鎌倉時代初期以前) |
開山 | 日澄 ※日蓮宗に改宗時 |
開基 | 不詳 |
大巧寺は鎌倉駅の駅近という繁華街の一角に位置しています。そんなビルの谷間にある境内のお庭では、四季折々の花をたのしませてくれます。とても多くの品種が丁寧に育てられていて、駅近の隠れた花の名所でもあります。
INDEX
源頼朝が軍評定を開いた大巧寺
大巧寺が創建された時期は分かっていませんが、遅くとも鎌倉時代初期には存在していたようです。そのころの大巧寺は「大行寺」と言い、鎌倉・十二所にあった梶原景時の屋敷内に建っていたと伝えられています。
梶原景時は、鎌倉幕府の御家人を束ねる立場にある侍所の所司(次官)に就くなど、鎌倉幕府初代将軍(鎌倉殿)源頼朝から厚く信頼されていました。坂東で大きな影響力を持っていた上総広常に謀反の疑いがかけられた際は頼朝の命により自らの手で謀殺したり、平家追討の戦では軍奉行を務めたり、鎌倉幕府の創設にも大きな貢献をしました。
「大行寺」では、源頼朝が軍議を開くこともあったようで、その戦で勝利したことから「大巧寺」と改められたと言います。巧みに勝利したことから、「行」と同じ読みだったこともあり、頼朝から「巧」の字が賜われたと考えられます。
小町大路が正面で若宮大路が裏側
その後、鎌倉時代後期の1320年(元応2年)、大巧寺は現在の鎌倉駅近くの地(鎌倉市小町)に移転しました。
大巧寺は、若宮大路と、若宮大路に並行するように走る小町大路に挟まれた敷地にあります。圧倒的に若宮大路側にある山門から出入りする人が多いですが、こちらは裏門で、正門は小町大路側にあり、本堂も小町大路に向かって建っています。
大巧寺と同じように、若宮大路と小町大路に挟まれたロケーションの寺院としては、すぐ近くに本覚寺がありますが、本覚寺も小町大路側が正面になっています。
若宮大路も小町大路も、それ以前からもとになった通りはあったのかもしれませんが、源頼朝が鎌倉入りした後に都市計画の一環として整備された道です。若宮大路は鶴岡八幡宮の参道というある意味シンボリックな位置づけの通りでしたが、小町大路は有力御家人の屋敷や本覚寺、妙本寺などの寺院が建ち並ぶ普段使いのメインストリートでした。
「おんめさま」の名前の由来
大巧寺ははじめ真言宗でしたが、現在も大巧寺の斜め向かいにある妙本寺の属す日蓮宗(法華宗)に改宗しました。現在は日蓮宗を離脱して、単立寺院となっています。
鎌倉に入った日蓮は、小町大路などで辻説法を行いながら布教していたと言い、現在でも小町大路沿いには日蓮宗の寺院が多く残っています。大巧寺のかつての本山・妙本寺は、日蓮宗最古の寺院の一つとして知られています。
そんな妙本寺の祖師堂へ、大巧寺第5世の日棟は、毎朝、勤経を上げに行っていました。
ある朝、日棟は、滑川に架かる加能橋(本覚寺と妙本寺の間ある、現在の夷堂橋と考えられます)で、難産の末命を落としたものの、成仏できずに苦しんでいるという、大倉に住む秋山勘解由の妻を名乗る女性に出会いました。これを哀れに思った日棟が法華経を読み聞かせたところ、いつしか、この女性の姿は消えていました。3日後、この女性は再び日棟の前に現われて、成仏できたことのお礼と、宝塔を建立して供養してもらうよう日棟におねがいしました。そして、妊婦さんがこの宝塔に法華経を唱えて祈願すれば、必ず安産となるよう恩返しすることを伝えました。
産女霊神が祀られたこの宝塔は産女宝塔や産女の塔と呼ばれるようになり、大巧寺に安産祈願のご利益があるという評判は広まっていきました。産女霊神はお産女様(おうめさま)と親しみを込めて呼ばれるようになり、いつしか「おうめさま」がなまって「おんめさま」と言われるようになったと言われています。
大巧寺で冬から初春に見られる花
大巧寺では、冬から初春にかけて、椿や梅などの花が見られます。
とくに椿は、植栽されている種類も本数も多く、例年2~3月に開花すると、若宮大路側の山門から続く参道沿いはツバキ園と呼んでも良いようなお庭になります。
本堂と庫裏の前で咲く利休梅も、可憐に咲きほこります。
椿(ツバキ)
ヒマラヤユキノシタ
水仙(スイセン)
ロウバイ
梅
木瓜(ボケ)
利休梅(リキュウバイ)
大巧寺で春に見られる花
大巧寺のお庭では、春になると、椿はじょじょに花を落としていき、入れ替わるように、ツツジ類が多く見られるようになっていきます。庫裏の前で咲きほこるシャリンバイも見ごたえがあります。
シャリンバイ
オオツルボ
キバナツツジ
大巧寺で初夏~夏に見られる花
初夏~夏の大巧寺では、若宮大路側の裏門から続く参道沿いのアガパンサスや小町大路側の正門から続く参道沿いのオニユリが目を引きます。足元で可憐に花咲くイワフジも見逃せません。
アジサイ
アガパンサス
ボタンクサギ
イワフジ
オニユリ
大巧寺で晩夏~秋に見られる花
夏は開花する花も少し控えめになりますが、それでも花が絶えることはありません。
晩夏~秋にかけての大巧寺では、白やピンク色のムクゲが目立ちます。また、参道沿いでは、コムラサキが足元を彩ります。