英勝寺は、江戸幕府初代将軍・徳川家康の側室・お勝の方が開いた、鎌倉唯一の尼寺です。お勝の方は、室町時代後期に扇谷上杉家の重臣として活躍した太田道灌の子孫です。家康の死後、仏門に入り、第3代将軍・徳川家光より鎌倉・扇ガ谷の太田道灌の屋敷跡の地を賜り、英勝寺を創建しました。英勝寺という名称は、お勝の方の院号・英勝院から名づけられたものです。
英勝寺の境内では、梅やツバキ、アジサイ、彼岸花など、四季折々の花をたのしめる寺としても知られています。枝垂れ桜やヤマザクラなどの桜で、東国花の寺百ヶ寺・鎌倉第6番の札所になっています。書院の藤棚で見られる白藤の壮麗さは、春の英勝寺の見どころの一つです。
英勝寺の入口にあたる通用門の前には、現在境内で見ごろの花々の案内が掲示されています。
また、晩秋にはモミジやイチョウの紅葉が境内を彩ります。
山号 | 東光山 |
宗派 | 浄土宗 |
寺格 | ― |
本尊 | 阿弥陀三尊像 |
創建 | 1636年(寛永13年) |
開山 | 玉峯清因 |
開基 | 英勝院 |
英勝寺の通用門には、徳川家三つ葉葵の御紋(外側)と太田家桔梗紋(内側)が合わさった紋様が埋め込まれていて、徳川家と太田家、両家にゆかりの深い寺であることを物語っています。
INDEX
水戸徳川家と英勝寺
お勝の方は、徳川家康の末男で、常陸水戸藩の初代藩主、水戸徳川家の祖となる、徳川頼房の養母です。英勝寺の開山(初代住持)は、頼房の娘の一人である小良姫(玉峯清因尼)で、以降も、明治維新直後までは、英勝寺の住持は水戸徳川家の姫が迎えられていました。
江戸時代を通じて水戸徳川家からあつい庇護を受けた英勝寺は、鎌倉・扇ガ谷からは離れた場所にある逗子・池子も寺領として与えられました。池子村は、廃藩置県前後も水戸藩、水戸県(現在の茨城県の一部)に属すなど、明治初期に神奈川県に編入されるまで、水戸徳川家や水戸藩などの強い影響下にありました。
英勝院・お勝の方の廟所
お勝の方の本名は「お梶」であったようですが、徳川家康が関ヶ原の戦いに同行させたところ勝利したため、「お勝」と改めさせたという逸話が残っています。
お勝の方は、徳川家康の死没後26年たった1642年(寛永19年)に、65歳で亡くなりました。お勝の方の墓は英勝寺にあります。
お勝の方の位牌を祀る祠堂は、日光東照宮の陽明門や唐門のような装飾が特徴の方三間宝形造の建物で、1643年頃の建築とみられています。祠堂は、建物の保護のため、外側をさらにお堂で囲われています。祠堂は、祠堂の手前にある祠堂門(唐門)とともに、国の重要文化財に指定されています。
江戸時代前期の伽藍がそろう英勝寺境内
英勝寺の山門、仏殿、鐘楼も、祠堂と祠堂門と同じ1643年頃に整備されたとみられています。江戸時代前期の建築がほぼそのまま残っていて、いずれも、国の重要文化財に指定されています。
英勝寺の山門、仏殿、鐘楼、および、祠堂門は、禅宗様を基調としつつ、屋根や軒を直線で構成する意匠に統一されています。江戸時代前期のほぼ同じタイミングに統一感のある意匠で建てられた主要な伽藍が、真空パックされたようにこれだけそろって残っている例はとてもめずらしく、山門と仏殿の間にある庭園に立つと、まるで江戸時代にタイムスリップしたような感覚を味わえます。
また、ところどころに徳川家三つ葉葵の御紋の装飾が見られるのも、英勝寺らしい特徴です。
英勝寺からもほど近い浄光明寺には、これらの英勝寺の伽藍と同じ時期に造られたと考えられる、英勝寺の旧惣門が浄光明寺の山門として残っています。
山門
英勝寺の山門は、1923年(大正12年)の関東大震災で倒壊した後、鎌倉の別の場所に移築されていましたが、2011年に境内の元の場所に復元されました。入母屋造の三間一戸二階二重門で、二階には釈迦如来と十六羅漢像が安置されています(通常非公開)。
仏殿
英勝寺の本尊・阿弥陀三尊像が安置されている仏殿は、「もこし」と呼ばれる庇状構造物が付いた、寄棟造の禅宗様建築です。桟唐戸や花頭窓といった本格的な禅宗様の意匠を見ることができます。
鐘楼
英勝寺の鐘楼は入母屋造の袴腰形式で、林羅山銘の梵鐘が安置されています。
梅やツバキなどが庭園を静かに彩る初春の英勝寺境内
初春の英勝寺境内では、梅やツバキなどの花々を楽しめます。どれもボリュームこそ多くありませんが、コンパクトな境内にいろいろな木々が植えられているため、見ごたえがあります。
梅(ウメ)
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椿(ツバキ)
水仙(スイセン)
山茱萸(サンシュユ)
書院の白藤の藤棚が美しい春の英勝寺境内
例年、4月下旬から5月上旬ごろに見ごろを迎える書院の白藤は、英勝寺を代表する季節の花の一つです。白藤が藤棚からしたたり落ちる様子は、壮麗です。
また、春の英勝寺境内では、黄菖蒲やドイツアヤメ(ジャーマンアイリス)などのショウブ/アヤメを多く見られます。竹林の中では、やはりショウブ/アヤメの仲間の、シャガが咲きほこります。
その他に、境内のいろいろな場所でツツジも見られます。
白藤
黄菖蒲
ドイツアヤメ(ジャーマンアイリス)
彼岸花が主役となる初秋の英勝寺境内
初秋の英勝寺の主役は、梅林の足元に真っ赤なじゅうたんを敷いたかのように咲きほこる彼岸花です。彼岸花は他にも、境内のいろいろな場所で見られます。ところどころ、白い彼岸花も植えられています。
彼岸花より少し先立つ時期には、書院の下で萩の花が咲きほこります。
彼岸花(ヒガンバナ)
萩(ハギ)
フヨウ
トレニア
モミジやイチョウが鮮やかな紅葉の頃の英勝寺境内
英勝寺では、総門の前のイチョウや、参道や山門の横のモミジなど、紅葉の見どころがたくさんあります。
イチョウの黄葉
モミジの紅葉
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英勝寺の竹林
英勝寺の境内奥の、源氏山の山すそには、竹林があります。きれいに手入れされている竹林には散策路が設けられていて、一年を通してさわやかな風が吹いています。