瓜ヶ谷やぐら群は、葛原岡神社北側の谷にある5穴からなるやぐら(横穴式の墳墓または供養の場)群です。一般的に、やぐら内には独立した五輪塔や石像などが「安置」されることが多いですが、瓜ヶ谷やぐら群ではやぐら内部の壁面に浮き彫りで五輪塔や石像などの「彫刻」が多数施されているのが大きな特徴です。
その特異性から、鎌倉を代表するやぐらの一つとして紹介されることも多いやぐらですが、アクセスが良好とは言えず、いわゆる鎌倉観光の定番エリアからは外れた山あいにあるため、訪れる人は多くありません。
しかし、瓜ヶ谷やぐら群は、鎌倉のやぐらを語るうえでは欠かすことのできない個性を持った、貴重なやぐらであると言えます。
瓜ヶ谷やぐら群は、鎌倉市によって市指定史跡に指定されている他、国指定史跡「仮粧坂」の範囲に含まれていて、保全の対象になっています。
また、近年では2012年に鎌倉市による調査が行われていて、2015年に調査報告書が発行されています。
とくに、5穴のなかで最大の通称「地蔵やぐら」と呼ばれているやぐらは、やぐら内中央にほぼ等身大の地蔵菩薩と思われる石仏が安置されていて、その背後の奥壁には阿弥陀如来像と考えられている石像が、右側壁面には十王像と考えられている4体の石像が、彫刻されています。この他にも地蔵やぐらには7基の五輪塔の彫刻が見られ、このようなさまざまな装飾が見られるやぐらは、数多く見られる鎌倉のやぐらの中でもとてもめずらしい存在です。
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五輪塔や石像が浮き彫りされてきた瓜ヶ谷やぐら群独特の進化
瓜ヶ谷やぐら群では、地蔵やぐらの他にも2つのやぐら内の壁面で、浮き彫りされた五輪塔の彫刻が見られます。
鎌倉市の調査によると、これらのやぐら内の彫刻は、やぐら造成と同時に施されたわけではなく、14世紀前半から近世まで、かなりの幅を持つ年月のなかで段階的に造られてきたもであることが分かっています。地蔵やぐら内中央に安置されている地蔵菩薩像の頭部も、後の時代に補完されたものであると見られています。
また、昭和初期には地蔵やぐら内に人が住んでいたという記録も残っていると言い、近現代まで人の手が加えられていた可能性が指摘されています。
このように、瓜ヶ谷やぐら群は、他にほとんど類を見ない特徴を持つやぐら群ではありますが、けっして中世のままの姿を留めているというわけではありません。
しかしそれは、長い年月埋没されていたものが発掘された場合を除いて、他のやぐらにも同じことが言えます。独立した五輪塔や石像などが「安置」されるのではなく、壁面に浮き彫りに「彫刻」されてきたのは、やはり、瓜ヶ谷やぐら群独特の進化だったと言えます。
かつて寺院が建ち並び鎌倉の縁にあった瓜ヶ谷
瓜ヶ谷やぐら群のある瓜ヶ谷は、JR横須賀線の北鎌倉駅の南側から梶原方面に延びる谷戸です。十王堂橋近くの丁字路から南北に走る市道を境に、西瓜ヶ谷と東瓜ヶ谷に分かれています。このうち、瓜ヶ谷やぐら群は東瓜ヶ谷の支谷の最奥に位置しています。瓜ヶ谷の山すそには瓜ヶ谷やぐら群の他にも数多くのやぐらが分布しています。西瓜ヶ谷にあるやぐら群が「西瓜ヶ谷やぐら群」と呼ばれているため、瓜ヶ谷やぐら群は「東瓜ヶ谷やぐら群」と表現される場合もあります。
鎌倉のやぐらは、寺院近くの山すそや、切通が造られるような鎌倉中心部とその外の境にあたるような場所に多く築かれました。
現在の瓜ヶ谷には寺院はありませんが、中世の瓜ヶ谷周辺には、観蓮寺(大船の多聞院の前身)、目足寺、東現寺など複数の寺院があったと見られています(いずれも詳細な場所は不明)。
また、JR横須賀線の線路を挟んだ反対側に鎮座する八雲神社は鎌倉時代に災厄をはらうために執り行われた四角四境祭の祭場だったと言われていて、この辺りは鎌倉の北側の境とされていたことが分かっています。
一見して瓜ヶ谷やぐら群はこれらの原理原則に当てはまらないようにも見えますが、歴史をさかのぼれば、いずれの条件にも当てはまる典型的なやぐらの立地条件にあることが分かります。
瓜ヶ谷やぐら群(東瓜ヶ谷やぐら群)への行き方
瓜ヶ谷やぐら群への行き方は、谷戸の下から登っていく方法と、上から降りていく方法があります。
北鎌倉駅から瓜ヶ谷経由
北鎌倉駅の鎌倉街道側の改札口(円覚寺方面ではない方の出口)を出て、目の前の鎌倉街道(県道21号)を右側に進みます。十王堂橋手前の、最初の横断歩道がある丁字路を左折して、しばらく道なりに進みます。
丁字路から900mほど進むと目の前にヘアピンカーブが、左側に棚田が見えてきますので、この棚田の左側の道に入り、まわりこむように進みます。瓜ヶ谷やぐら群に続く登り口に突き当たりますので、これを登って行きます。
北鎌倉駅から浄智寺、葛原岡・大仏ハイキングコース経由
北鎌倉駅の鎌倉街道側の改札口(円覚寺方面ではない方の出口)を出て、目の前の鎌倉街道(県道21号)を左側に進みます。しばらく歩くと、JR横須賀線の踏切の手前で、右側に浄智寺の入口が現われます。これを浄智寺境内方面に進んで、総門から入らずに、左側をまわりこむように進みます。
ここが葛原岡・大仏ハイキングコースの起点で、しばらく浄智寺境内の左側を歩いて行くことになります。徐々にハイキングコースらしい道に変わっていきますが、葛原岡神社方面の標識にしたがって進んで行きます。
浄智寺から550mの地点の分岐地点で、標識の案内がない方向に道が続いていますので、こちらへ進みます(下記の写真の左前方)。ここからしばらくかなり急な山道を降りて行くことになります。備え付けのロープなどをたよりに進むと、瓜ヶ谷やぐら群にたどり着きます。
分岐地点の目印の明確さという点では葛原岡・大仏ハイキングコース経由のほうが分かりやすいですが、一般的なハイキング以上の装備(軽登山の装備)は必要と考えておいたほうが良いでしょう。