十王岩は、建長寺境内最奥・半僧坊の裏にある勝上嶽展望台から天園ハイキングコースを大平山方面に5分ほど歩いた場所にある磨崖仏です。
鎌倉の中心市街への眺望が良いことから、「鎌倉十王岩の眺望」として、「かながわの景勝50選」に選ばれています。
三方を山に囲まれているため、鎌倉には鎌倉のまちを見下ろすことができる場所は少なくありません。しかし、十王岩のある辺りは建長寺の裏山であるとともに、鶴岡八幡宮のほぼ真後ろにあたるため、中心市街を若宮大路が貫き由比ヶ浜に至るという、鎌倉のまちの骨格を俯瞰して見ることができる貴重な場所です。
十王岩は、数多くのやぐら(横穴式の墳墓または供養の場)が点在する、かつて「地獄谷」と呼ばれた建長寺・回春院のある谷戸の最奥にもあたります。十王岩は、この地獄谷の頂点に位置しています。
また、地獄谷は罪人の刑場跡でもあり、今も残るやぐら群とともに、十王岩との関係性が想起されます。
かつては「喚十王窟(わめき十王やぐら)」と呼ばれた十王岩
江戸時代後期に成立した地誌「鎌倉攬勝考」には、由緒は分からないとしながらも、「喚十王窟(わめき十王やぐら)」として、以下のような説明が載っています。
西御門村の山のうへ巌窟の内に、仏像三躯を掘たり。古き物に見へ、中尊は血盆地蔵、左の方は如意輪観音、右の方は閻魔なり・・・
「鎌倉攬勝考 巻之九 岩窟」より抜粋(一部、旧字体を新字体に置き換えています)
この「喚十王窟(わめき十王やぐら)」が、現在目にすることのできる十王岩のことであると考えられます。西御門村は、鶴岡八幡宮の東側から裏側にあたる現在の鎌倉市西御門周辺のことで、西御門1丁目からは回春院奥やぐら群、朱垂木やぐら群を経て十王岩に至る山道が続いています。
「鎌倉攬勝考」の説明のとおり、石仏が彫られていることを確認することができますが、劣化が激しいため、かろうじて3体あることが分かる程度の状態です。3体の石仏は、鎌倉の中心市街を見下ろすように建っています。
また、「鎌倉攬勝考」では「やぐら」と呼んでいますが、この当時にはすでに岩窟は崩れ落ちてしまっている描写が見られます。尾根道上にあり、風雨を直に受けることから、崩壊してしまったのでしょう。
現在の十王岩は完全に露呈しているため、岩窟の中にあったという面影は見られませんが、石仏の両側が張り出していることから、壁があったようにも見えます。
なお、十王岩のすぐ左下にも、やぐらの跡のような遺構が残っています。
天園ハイキングコースの見どころ
「鎌倉アルプス」とも言われる天園ハイキングコースは、鎌倉市街地の背後にそびえる山々を横断するハイキングコースです。
そのため、鎌倉・二階堂方面や北鎌倉方面の寺院などを行き来するアクセス路としても利用できます。
また、東に進むと、鎌倉市最高峰の大平山や天園を経由して、横浜自然観察の森や金沢市民の森、横浜市最高峰の大丸山、金沢自然公園(金沢動物園)などの横浜・金沢区方面に抜けることができます。
十王岩は、この天園ハイキングコースの尾根道から、わずかに北側(今泉台側)にそびえています。